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ミーコワールド

ミーコワールド

 

    「Ⅱ」

警察が帰ったあと、塾のオーナーの母親は変な言い訳を

しに来ました。

「天井はいつも閉めてあるけれどもネコがあけて

天井裏へあがるんだ」と。

その頃、隣の二階に大学生の男の子が下宿していました。

私とその子(T君としておきます)は顔を見合わせたのです。

T君は「ネコが?どうやって?」と言ったのです。 

私は(アッ余計な事を言った)と思いました。 

警察へはお礼方々私の方から出向いて行きました。

そしてネコが天井を開けて上がるんだという話をしたら、

「あこのネコのジャンプ力はすごいんだなぁ!」

という事でした。足掛かりになるものは何もないのです。

刑事が大事にハンカチに包んでいたものは鑑定の結果、

「コカイン」だったそうです。

天井への上がり口は警察が塞いで帰ったと告げられました。

それからしばらくは何事もないかに見えましたが、

半月もしない頃、T君が朝から泣きながらやって来ました。

私が来るのを寝ないで待っていたと言うのです。

私は「どうして?」と聞きました。 

「お母さんにも電話しているが信じてくれない。 

おばさん僕どうしたらいいの?」という相談でした。

その頃は恐ろしさでしばらく、寝ていないという事でした。

事情は次のようなものでした。

あの事件後、塾の母親や本人(S)や塾のスクールバスの

運転手達が入れ代わり立ち代りやって来て、それもお弁当を

持ってやってきたり、お菓子や、ジュース、いろんな食べ物を

持ってやってくるという事でした。 

そしてT君が食べるのを見届けて帰るのです。

それから身体の調子がおかしくなってきた、と言うのです。

「食べなければいいじゃないの?」と言ったのですが、

食べなかったら怖いので食べたと言うのです。

態度はにこやかだけれども有無を言わさぬ雰囲気だと

いう事でした。 時には怒鳴ったり、おとなしくなると

またにこやかになって・・・。

「家に入れなければいい」と言ったのですがT君が外に

出られなくなったと言いました。 

そうです。 彼らに見込まれたらたとえ傍に他の人がいても

感じ取れない何かで威圧するのです。 

外国映画によく出て来るアレです。

その恐ろしさは本人にしかわからないのです。

「僕、殺されるかも知れない。 おばさんどうしよう?」と

言って泣きます。 その時、お客様が店に何人かいてみんな

真剣に聞きました。 しかし塾の素顔を知らない人はT君の

事を頭が変だと思ったようです。 私は「警察へ行きなさい」

と助言したのですが「警察へ行ったのがわかると何をされるか

わからない」と言って泣きます。

どうしようもありませんでした。 「あなたが戦わずして誰も

援助はできないよ」と言ったのですが20才やそこらの人には

無理からぬ事でした。 いくら男だといってもそれは無理な事

でした。 それからの彼は私がいる間は私の店にいるようになり

ました。 しばらくしてお母さんが迎えに来て実家に帰っていき

ました。 もうフ~~という感じで魂の抜けた抜け殻のように

なっていました。 ほほはこけて顔色も悪く、痩せこけてしまっ

ていました。

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